

この日の朝、通勤バスがロンドン橋を渡る時、私は信じられない光景を見た。
橋の両側の歩道をおびただしい人が、ぞろぞろとシティに向かって歩いているのである。
時刻は午前七時。
私は仕事柄、朝が早いが、ふだんこの時間はこのように多くの人は歩いていない。
彼らは早めに会社に行って、テレビでイングランドチームを応援するのである。
自宅のテレビで観戦していては、会社を休まなくてはならない。
だから、早く会社に行き、会社か、あるいは、近くのパブでテレビを見るのである。
商売上手のパブもそこのところは心得ていて、店の入り口には試合の日程表(もちろんイングランドの試合を中心に)を「これを見よ」とばかりに貼りだし、大型画面のテレビを設置して、客の引き込みに怠りはない。
朝食も用意する。
ビールも、もちろん出す。
小学校でも子供たちが早めに登校したところが多かった。
特別に朝の給食が用意された。
それを食べながらテレビで観戦するのだ。
ついでに書くと、大手スーパーではこの時期、サッカー観戦用の朝食なるものが売り出された。
それは、シリアルヨーンフレーク)やポテトチップス、ミルクなどが一袋になったもので、これを買って早朝のテレビ観戦をしようというのだ。
私が会社に着くと、すでに社員の一団がパブに出かけようとしていた。
皆、白地に赤い十字のイングランドの旗を持ち、楽しそうにしている。
試合が終わったのは、九時半過ぎ。
その後、閑散としていたディーリングルームにようやくぞろぞろと社員が戻って来た。
悲喜劇も生まれた。
新聞の報道によれば、ある道路工事に従事していた男性は、持ち場を離れ、近くのパブに入り、ビールを飲みながら観戦したことを問題にされ、クビになったという。
彼からすれば、イングランドチームの応援と、道路工事のどちらが大事か、と言いたかったに違いない(多分、クビになる前にそう抗弁しただろう)。
だが、無断で持ち場を離れ、ざらに、ビールまで飲んだのがいけなかった。
ところで、職場のテレビで観戦しているイギリス人を見ていると、いろいろな傾向に気づく。
イングランドの次に熱心に応援するチームは、隣国のアイルランドだ。
これは理解出来る。
しかし、欧州のフランスやドイツは応援しない。
彼らが熱心に応援するのは、アメリカのチームである。
アメリカとポーランドが試合をした時、私は彼らが距離的に近いポーランドを応援するだろうと思っていたが、そうではなかった。
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